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資産管理会社を設立する際、合同会社と株式会社のどちらを選ぶべきか、一律の正解はありません。設立コストとランニングコストの安さを優先するなら合同会社、相続時の承継の容易さや社会的信用を優先するなら株式会社が適します。純金融資産5億円以上の超富裕層の場合、長期的な事業承継の観点から株式会社を選ぶケースが多いというのが実務的な傾向です。
本記事では、設立コスト・ランニングコスト・税率・相続対策・社会的信用という5つの判断基準から、両者の違いを具体的な数字とともに比較します。超富裕層がつまずきやすい落とし穴も含めて解説します。
この記事でわかること
- 設立コストは株式会社約24万円、合同会社約11万円です
- 法人税率・実効税率は両者で差がありません
- 相続時の承継しやすさは株式会社が有利です
- ランニングコストの差は年間最大10万円程度です
- 家族経営の資産管理目的なら合同会社で十分です
資産管理会社で合同会社が選ばれる3つの理由
資産管理会社を設立する際に合同会社が選ばれるのは、設立コスト・ランニングコスト・意思決定の柔軟性の3点で株式会社より優位だからです。事業拡大や外部株主の受け入れを想定しない「家族のための会社」という性質に、合同会社の制度設計が合致しています。
【用語解説】資産管理会社(プライベートカンパニー)とは
個人や同族家族が所有する不動産・有価証券・自社株式などの資産を、法人に保有させて管理・運用する目的で設立される会社です。事業活動を行う通常の会社とは異なり、資産の保有・管理が主目的となります。
理由1:設立コストが株式会社より約13万円安い
合同会社の設立にかかる法定費用は最低約6万円、株式会社は最低約20万円からとされています。差額の約14万円は、登録免許税の最低額の差(合同会社6万円 vs 株式会社15万円)と、定款認証手数料(合同会社は不要、株式会社は1.5万〜5万円)によって発生します。
登録免許税は、資本金額に0.7%を乗じた金額と最低額を比較して、高い方が適用されます。国税庁のタックスアンサーによれば、資本金が2,142万円を超えると、株式会社の登録免許税は15万円を超えていきます。(参考:国税庁 No.7191 登録免許税の税額表)
理由2:決算公告と役員任期がなくランニングコストを削減できる
株式会社は会社法第440条により毎年の決算公告が義務付けられており、官報に掲載する場合は約7万円前後の費用がかかります。合同会社にはこの義務がありません。
また、株式会社の取締役の任期は会社法第332条第1項により原則2年(非公開会社は最長10年)と定められており、任期満了ごとに役員変更登記が必要です。登録免許税は1件につき1万円(資本金1億円超は3万円)かかります。合同会社には役員任期がなく、この登記コストは不要です。(参考:法務省「役員の変更の登記を忘れていませんか?」)
理由3:出資比率と利益配分を定款で自由に設計できる
株式会社では、配当は出資比率に応じて分配されます。一方、合同会社は定款で自由に利益配分を決められるため、例えば「子ども2人に出資比率は50%ずつだが、貢献度に応じて配当は70:30に分配する」といった柔軟な設計が可能です。
家族経営では出資額より「誰が実際に会社運営を担うか」で配分を決めたいケースがあり、この点で合同会社の制度は実務に馴染みやすい仕組みになっています。
合同会社と株式会社の設立・運営コスト比較
合同会社と株式会社の設立費用(自力申請・電子定款)の差は約13万円です。さらにランニングコストとして、株式会社には決算公告費用(官報掲載で年約7万円)と役員変更登記費用(10年に1回・1万円)がかかります。10年間の累計では、これらが積み上がり合同会社との差は約80万円以上になります。超富裕層の資産規模から見れば誤差の範囲ですが、見えにくいコストを把握しておくことは意思決定の出発点になります。
表1:合同会社と株式会社の主なコスト・制度比較(2026年4月時点)
| 項目 | 合同会社 | 株式会社 |
|---|---|---|
| 登録免許税(最低額) | 6万円 | 15万円 |
| 定款認証手数料 | 不要 | 1.5万〜5万円 |
| 定款印紙代(電子定款なら不要) | 4万円 | 4万円 |
| 設立費用の総額目安(電子定款・自力申請) | 約6万〜11万円 | 約20万〜24万円 |
| 役員任期 | なし | 原則2年、最長10年 |
| 役員変更登記費用(10年ごと) | 不要 | 1万円(資本金1億円超は3万円) |
| 決算公告義務 | なし | あり(官報掲載で年約7万円) |
| 法人税率 | 同じ(資本金1億円以下で所得800万円以下は15%、超過分は23.2%) | |

法人税率に差はない|知っておくべき共通ルール
資産管理会社にかかる法人税率は、合同会社でも株式会社でも同じです。会社形態の選択によって税率が変わることはありません。資本金1億円以下の中小法人の場合、所得800万円以下の部分は税率15%、800万円超の部分は税率23.2%が適用されます。
令和7年度税制改正により、所得金額が年10億円を超える事業年度については、800万円以下の部分に適用される税率が17%に引き上げられました。また、軽減税率15%の適用期限は2027年3月31日までに2年間延長されています。(参考:国税庁 No.5759 法人税の税率)
法人税・法人住民税・法人事業税などをすべて含めた実効税率は、所得800万円超の部分で概ね30〜34%前後になります。個人の所得税・住民税の最高税率が55%であることを考えると、所得が一定以上の富裕層にとって、法人化による税率差は無視できない水準です。
超富裕層にとっての注意点
資産管理会社の所得が年10億円を超えると、令和7年税制改正で軽減税率の扱いが変わります。また、株式譲渡益や不動産売却益など大きなキャピタルゲインが発生する年は、一時的に所得が10億円を超える可能性もあるため、あらかじめ税理士と確認しておくことが重要です。
相続対策では株式会社が有利な3つの理由
相続対策を資産管理会社の主目的にする場合、株式会社のほうが圧倒的に有利です。合同会社は制度設計上、相続による持分承継で複数のつまずきが発生します。超富裕層が見落としがちなポイントを3つに整理します。
理由1:合同会社の持分は相続時に自動承継されない
株式会社の株式は、相続によって自動的に相続人に承継されます。一方、合同会社の持分は、会社法第607条第1項第3号により、社員が死亡すると原則として「退社事由」となり、相続人が自動的に社員になるわけではありません。相続人が社員となるためには、定款に「相続による持分承継の定め」を設けておく必要があります。
この定めがない状態で社員が1人だけの合同会社の社員(=実質オーナー)が死亡すると、社員不在で会社が解散する事態になります。資産を守るはずの資産管理会社が、相続をきっかけに消滅するリスクを抱えることになるわけです。
理由2:持分承継には相続人全員の同意が必要になりやすい
定款に相続承継の定めを設けても、持分は相続人全員による共有となるケースが多く、特定の相続人に集中させるには他の相続人全員の合意が必要になります。株式会社の株式のように、遺言書で「長男に全株式を相続させる」と指定するだけでは整理しきれない問題が発生しやすくなります。
理由3:出資持分の移転(贈与・売却)に柔軟性が乏しい
株式会社の株式は、譲渡制限を設定していても、定款に定めた承認機関(取締役会など)の承認を得れば譲渡できます。合同会社の持分は、原則として他の社員全員の承諾がなければ譲渡できません(会社法第585条第1項)。生前贈与で持分を子どもや孫に段階的に移していく際、株式会社のほうが実行しやすい構造です。
「安い」だけで合同会社を選ぶと後で転換コストが発生します
設立コストが安いという理由だけで合同会社を選び、相続や事業承継のタイミングで株式会社への組織変更を検討するケースは珍しくありません。組織変更には約2か月の期間と約10万〜15万円の費用がかかり、債権者保護手続きや官報公告など実務負担も発生します。最初から株式会社で設立しておけば不要だった手間とコストです。
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合同会社・株式会社の選び方|5つの判断基準
最終的な選択は、資産管理会社を設立する目的と、10年後・20年後の承継計画によって決まります。5つの判断基準から、どちらが適しているかを整理します。
判断基準1:設立時点での資産規模と目的
資産が数千万円〜1億円程度で、自分一代で運用することが主目的なら合同会社で十分です。純金融資産5億円を超え、次世代への承継を視野に入れているなら、初期コストの差を気にせず株式会社を選ぶほうが長期的には合理的です。
判断基準2:相続人の数と関係性
相続人が1人の場合は合同会社でも大きな問題は生じにくいですが、相続人が2人以上いる場合は株式会社が向きます。定款での持分承継の定めは技術的には可能ですが、全員の合意形成が必要になる場面が増えるため、将来の紛争リスクを考えると株式会社の柔軟性が活きてきます。
判断基準3:不動産融資を受ける予定があるか
資産管理会社で不動産融資を受ける場合、金融機関は会社の信用度を審査します。合同会社でも融資は受けられますが、一部の地方銀行や信用金庫では株式会社のほうが審査上有利に扱われる傾向があります。大型の収益不動産取得を計画している場合は株式会社のほうが無難です。
判断基準4:事業承継税制の活用可能性
中小企業庁が所管する「事業承継税制(法人版)」は、要件を満たす非上場株式等の相続・贈与について、相続税・贈与税の納税猶予・免除を受けられる制度です。株式会社の株式が対象であり、合同会社の持分は原則として対象外です。将来、この制度を活用した承継を想定するなら、株式会社で設立しておくべきです。(参考:中小企業庁 法人版事業承継税制(特例措置))
判断基準5:上場・M&A売却の可能性
資産管理会社を通じて事業会社の株式を保有し、将来的にその事業会社のIPOやM&Aを想定する場合は、株式会社一択です。IPO準備段階で資産管理会社の形態変更は避けたい論点です。実際、2025年に上場した企業のうち4割超(65社中27社)が資産管理会社を保有していたと報告されており、上場を見据えた資本政策ではスタンダードな選択肢になっています。
よくある質問
Q1. 合同会社で設立した資産管理会社を、後から株式会社に変更できますか?
変更できます。組織変更の手続きが必要で、期間は約2か月、費用は約10万〜15万円が目安です。債権者保護手続きや官報公告の実施が求められるため、司法書士への依頼が一般的です。
Q2. 合同会社の資産管理会社で、相続による会社消滅を防ぐ具体的な方法はありますか?
定款に「社員が死亡した場合、相続人が持分を承継して社員となる」旨の定めを設けておく方法が基本です。また、社員を複数にしておく(配偶者や子を社員に加える)ことで、1人死亡しても会社が存続する構成にすることも可能です。定款の設計は専門家と相談しながら進めることをおすすめします。
Q3. 超富裕層は合同会社と株式会社、どちらを選ぶケースが多いですか?
純金融資産5億円以上の超富裕層では、株式会社を選ぶケースが多く見られます。相続対策・事業承継税制の適用・不動産融資・IPO連動などを踏まえた結果です。ただし、家族構成や資産構成によって最適解は変わるため、一律の正解はありません。
Q4. 法人税率に差がないなら、合同会社と株式会社のどちらを選んでも税金の負担は同じですか?
本体の法人税率は同じです。ただし、設立時の登録免許税・ランニングコストの決算公告費用・役員変更登記費用・将来の組織変更費用など、税金以外のコストで差が出ます。10年以上の運営を想定すると、累計で100万円前後の違いが発生します。
まとめ
資産管理会社を合同会社と株式会社のどちらで設立すべきかは、資産規模・相続人の数・将来の承継計画によって変わります。要点は以下の5つです。
- 設立コストは合同会社が約11万円、株式会社が約24万円で、差は約13万円です
- 法人税率は両者で差がなく、税率だけで選ぶ意味はありません
- ランニングコストは合同会社のほうが年間最大10万円程度安くなります
- 相続対策・事業承継税制・IPO連動を想定するなら株式会社が有利です
- 純金融資産5億円以上の超富裕層では、長期の承継観点から株式会社を選ぶケースが多い傾向にあります
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